危機管理の基本: その⑦ 致死率は高いか? 自然発生のものか、バイオテロなど人為的なものか?

致死率は高いか?

 その病気で死亡した人数を発症した患者人数で割ったのが致死率である。ただ、重症化するまで病院を受診しないかもしれない。そうであると致死率は実際より高くなる。感染症対策を考える際、感染拡大の速度と致死率の両者が非常に重要である。前者が速くても後者が低ければ患者は多くなるが、恐れる必要はない。逆に後者が高くても、感染し難いものであれば、同じく恐れる必要はない。

本書の各論では致死率が10%以上のものを取り上げた。このような感染症は必ずしも多くはない。

自然発生のものか、バイオテロなど人為的なものか?

 政治家、メディア、郵便局員など特殊な職業に集中する場合、地方でみられる病気が都市部で多発するなど、不自然さがある場合、バイオテロを疑ってかからなくてはならない。

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以下のアウトブレイクにあなたは不自然さを感じるか?

 1984年9月17日、オレゴン州の保健所にダレスあるいはオレの2つのレストランのいずれかで食事をした人が数日後に胃腸炎になっているという知らせが入る。サルモネラが原因であることが判明。翌週より他のレストランで食事をしたものの間で胃腸炎が急増したという知らせを受けた。最終的に751人の食中毒患者を同定。流行曲線を描くと9月の中旬には小さな、9月の後半には大きなピークが認められる。不思議なことに、同じダレスではあるが、2番目のピーク時患者は1番目のピーク時患者とは異なる数件のレストランで発生していた。聞き取り調査からサラダ・バーが原因と判明。しかし、レストランによってサラダ・バーのメニューは異なり、どの野菜が原因かは判明していない。12のレストランへの食材提供経路は異なり、しかもしっかり調査を行っているが明らかな感染源はみつからなかった。生野菜の管理も悪くなく、店員で食中毒になったものもいたが、衛生上問題は見つからなかった。JAMA 1997: 278: 389-95

 普通の食中毒における流行曲線は最初の山が大きく、人から人に感染する場合などは家族内感染を来して2番目の小さな山をみる。このケースでは、逆で、最初に小さな山があり、次に大きな山が出現している。

 種を明かすと、ラジニーシュプラムという宗教団体が地域の選挙を妨害するためにレストランのサラダ・バーにサルモネラ菌をまいたのが原因だったのだ。最初2つのレストランで試験的に行いうまくいくことを確認。その後10のレストランで同時に試したのだ。この宗教グループが別件で逮捕された際、サルモネラ菌をサラダ・バーに混ぜたことを自供してはじめてわかったバイオテロである。CDCも調査に入っているが、また751人という非常に大きなアウトブレイクだったにも関わらず、アウトブレイク調査当時、バイオテロだとはだれも気付いていなかった。しかし後からみると、ふつう12レストランの食材提供経路が一致していることが多いが、それがないというのは不自然である。また2つのピークで異なるレストランが食中毒源だ。普段のパターンと違うと認識できることが重要。CDCというプロ集団でも「普段と異なる食中毒」という認識あるいは直感が働かなかったケース。

 1993年6月29日オウム真理教も亀戸の教団施設屋上から炭疽菌を噴霧したが、そのときは異臭騒ぎだけで終わっている。裁判中の自供により炭疽菌であることが明らかとなった。その点この事例に似ている。

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