リスク分析の事始め(5)中東・イスラーム世界についてのヴィジョナリーといえばジル・ケペル

 世界の中東専門家の中で「ヴィジョナリー」型に当てはまる人といえば、第一に、フランスのジル・ケペル(パリ政治学院教授)を私は思い浮かべる。

 ケペルは1970年代末からエジプトでイスラーム主義過激派の研究に専念していたところ、1981年10月の、ジハード団によるサダト大統領暗殺事件に出くわした。研究はすぐに本となり、イスラーム主義過激派研究の先駆となった(Gilles Kepel, Muslim Extremism in Egypt)。その後も、フランスの社会問題としてのムスリム移民の過激化の問題にいち早く着目し、それをイギリスやアメリカでも共通して起こる問題として一般化した。世界に広がるグローバル・ジハードの現象についても、早い段階で浩瀚な書物を表していた。

 「下手な考え休むに似たり」などとも言う。将来の予想など元来できっこないのであり、凡人にはなおさら無理だ。ならば、世界に数少ないヴィジョナリーの発言には気を配っておくのが良いだろう。そうしておいて、「彼ならばこの状況をどう見るだろうか」としばしば思考を巡らせておく。そうするといつしか、ヴィジョナリーたちのモノの見方が少しでも身につくのではないか。

 ジル・ケペルという、中東・イスラーム世界に関する類稀なヴィジョナリーの眼で世界を見るとどうなるか。それを知りたくて、ケペルのフィールドノートを翻訳したことがある(ジル・ケペル著、池内恵翻訳・訳注・解説『中東戦記  ポスト9.11時代への政治的ガイド』講談社選書メチエ)。ヴィジョナリーの眼を通して現地社会を見れば、看板一つからも、いろいろなことが読み取れる。それら一つ一つが、リスクの想定支える背景情報になる。

 次からは、歴代の中東の「ブラック・スワン」を予測して当ててきたヴィジョナリーの面々や、今後もしかすると重大な変化を当てていたと評価されるかもしれない(されないかもしれない)、ヴィジョナリー予備軍たちを幾人か紹介してみよう。

 

前のページに戻る