ウエストナイル熱(1)

ニューヨーク

1999年8月23日、クイーンズ北部フラッシング病院の感染症専門医からニューヨーク市保健課に2人の脳炎患者の報告があった。保健課は他にも同様患者がいないか調査したところ、さらに6人の脳炎患者を同定した。この8人は58~87歳で、他の病気の既往はない。熱がでたあと精神状態の異常を来した。1人以外は筋力低下を示し、4人は弛緩性麻痺を伴い人工呼吸器を使用せざるを得ない状態、3人は非定型的ギラン・バレー症候群による弛緩性麻痺、髄液検査上ウイルス感染を示唆する所見だった。8人は皆クイーンズ北部40km2に住んでいる。

〇患者1
60歳男性
主訴:3日前からの発熱、虚脱、吐気
入院日:1999年8月12日
入院時身体所見:39.7度あるも他の目だった所見なし
胸部X線写真で両側肺底部の浸潤影を認めたため抗生剤が投与される。
第4病日、患者は錯乱状態となり、近位筋の筋力低下、深部腱反射の低下、呼吸困難、尿停留あり。陽圧換気開始。腰椎穿刺による髄液検査と頭部CTを施行。筋電図と神経伝達速度検査結果より軸索性多発ニューロパシーの所見を呈し、ギラン・バレー症侯群と診断した。数週間かけて徐々に回復。リハビリ病院に転院。5ヶ月後、左の筋力低下が残り4つ足杖をついての歩行、最近の記憶喪失が残った。

他7人もおよそ似た症状であった。いずれも高齢者ばかりである。

このクイーンズ北部40km2に住んでいる初期の患者8人の患者家族にインタビューしたところ、

1) 家族はこの夏健康で熱をだしたりはしていない
2) 生活環境では、患者全員に共通して夕方ガーデニングをするなど家の周辺の屋外で活動していた
3) 患者の家の庭や近隣ではイエカが多く蚊の幼虫もみつかっている

以上より脳炎アウトブレイクの原因としてイエカをベクターとする脊椎動物宿主間に伝搬されるアルボウイルスが疑われた。

イエカで媒介される脳炎には、セント・ルイス脳炎、西ナイル熱、日本脳炎が代表的。1999年当時アメリカでみられていたものはセント・ルイス 脳炎であった。しかしこの脳炎・髄膜炎では小児例もみられるはず。参考までに2000年時のセント・ルイス 脳炎、西ナイル熱、日本脳炎の世界分布を示す。(アメリカニューヨークの青いマークは消した図を作成)

2000年時のセント・ルイス 脳炎、西ナイル熱、日本脳炎の世界分布

あなたはニューヨーク市保健課に勤める医師である。当時のアメリカの状況からは、セント・ルイス脳炎が考えられるが、子供にみられておらず臨床像も多少異なり疑問が残る。かつ原因の候補であるものの診断は確定はしていない。しかしイエカで媒介される脳炎という点では間違いはなさそうである。あなたはこれ以上の患者数が増加することを抑えたいと思っている。取り急ぎ行政としてどのようなアクションをとるべきか?

・患者居住地の蚊の殺虫駆除
・サーベイランス強化

現段階で8人の患者を把握しているのみだが、ひょっとするともっと多いかもしれない。また、もっと前から流行がはじまっていたのかもしれない。そこであなたはニューヨーク市保健課に勤める医師として、とりあえず8月1日までさかのぼって病院に電話サーベイをすることにした。
1) 誰に何を聞くべきか?
2) 症例定義は如何に?

1.ニューヨーク市および近接する郡の病院および市郡役所に対して中枢神経系ウイルス感染症(ウイルス性脳炎、無菌性髄膜炎)の報告を疑い例も含めて求める。
2.症例定義
(1)ウイルス性脳炎:発熱、精神状態の変化、他の脳皮質症状、脳脊髄液の異常
(2)無菌性髄膜炎:発熱、髄膜刺激症状、脳脊髄液の単核球数増加などの異常
(3)発熱を伴うギラン・バレー症侯群

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