インフルエンザ・パンデミック(4)

3月24日から4月24日の間にメキシコでは98人の入院があり、18人で豚インフルエンザが検出された。そのうち半数は13歳から47歳であり、8人は基礎疾患をもっていたが10人は元来健康で、18人中16人は始めての入院である。全員で発熱、咳嗽、呼吸困難、血清LDHの上昇を認めた。12人は人工呼吸器を必要とし、7人が死亡した。18人は発症してから入院まで4日から25日かかっており(中央値6日)入院前経口抗生剤は投与されたものがいるものの、誰も抗インフルエンザ薬を投与されていなかった。一方、これらの患者と接触した医療関係者のうち22人が1週間以内に軽から中等度のインフルエンザ様疾患に罹患したが、皆タミフル治療を受け、入院するほど重症化したものは居なかった。

これら入院した患者の家族82人から20人(24%)のインフルエンザ様疾患が患者入院1週間以内に発生し、4人が入院した。一方、最初の3人に救急室あるいはICUでケアにあたった医療従事者190人中22人(12%)がインフルエンザ様疾患を発症した。患者と直接接触するか2メートル以内に接近した人104人中19人(18%)であった。この22人の医療従事者は5日間タミフルを内服し、自宅に3~7日帰された。彼らは軽から中等度の症状を呈したが誰も入院したものはいなかった。その後、感染症対策が厳重に行われた。ゴーグル、ガウン、手袋、N95マスク、アルコールゲルの手消毒を導入してから、インフルエンザ様症状を示すものはいなくなった。26人は軽い咳などを認めたためタミフルを5日間内服したという。アメリカでの家族内感染の調査では発症率13%であった(NEJM 2009; 361: 1935-44)。これらのエピソードからどのような可能性が考えられるか?列挙せよ。

1.季節性インフルエンザよりも家族内感染率が高い。
2.患者と2m以内など濃厚に接触するほど、発症率は高い。
3.早期よりタミフルを内服すると重症化し難い。
4.医療従事者は一般人に比べ重症化し難い:医療従事者が日頃季節性インフルエンザと接触しており新種のインフルエンザに対しても免疫力を持っていた。
5.感染対策を行うことによって発症を減らすことができる。
6.体内に入るウイルス量(接触の濃密度、感染防護策により左右される)も発症率、あるいは重症化率に影響する因子かもしれない。

5月7日(木)、アメリカは4月15日から5月5日までの豚由来インフルエンザA(H1N1)感染患者の臨床データをまとめて緊急で誌上発表した(NEJM 2009; 361: 1935-44)。アメリカ41州で(1)642例の豚インフルエンザ患者を診断。年齢は3ヶ月から81歳。60%は18歳以下。10~18歳が全体の4割。51歳以上は全体の5%。18%はメキシコに旅行し、16%は学校でのアウトブレイクに関連していた。(2)症状は発熱(94%)、咳(92%)、咽頭痛(66%)、下痢(25%)、嘔吐(25%)。入院したか否かが分かっている399名を調査したところ、36人(9%)が入院していた。入院患者のうちデータを入手可能だった22名について調査した。(3)4人は5歳未満小児。1人は妊婦。9人は慢性疾患患者:複数の免疫抑制剤使用中の41歳女性、先天性心疾患をもつダウン症の35歳男性、軽い喘息と乾癬の既往のある妊娠35週の33歳女性、新生児重症筋無力症の既往、心室中隔欠損、嚥下障害、慢性低酸素血症のある22ヶ月の小児、喘息患者5人。7人は発症前7日以内にメキシコを旅行。11人は肺炎。8人はICUに入院。4人は人工呼吸管理を必要とした。(4)18人は回復したが、何の既往も無い23ヶ月幼児、健康だった30歳女性は呼吸不全で重篤な状態。22ヶ月の重症筋無力症と33歳妊婦は死亡した。

下線(1)、実際の患者数はどうだと思うか?

全ての患者が医療機関を受診するとは限らない。急速に患者数が増えているため、現場では豚インフルエンザのPCR検査が追いついていないはず。どの程度かは判らないが、過小評価しているであろう。

下線(2)、今回の豚インフルエンザの症状は従来の季節性インフルエンザのそれと異なる部分はあるだろうか?

下痢、嘔吐は季節性インフルエンザでは、さほど多くない。

下線(3)、今回の豚インフルエンザの重症化リスク因子は従来の季節性インフルエンザのそれと異なる部分はあるだろうか?その理由は?

季節性インフルエンザでは高齢者が重症化しやすい。しかし、今回の豚インフルエンザ入院例では高齢者の重症例が少ない。発症に関しても、小児や青年で高齢者よりも多い。何故か?子どもや青年の方が学校などで多くの人と接触するが、高齢者は家に居ることが多く、1日で接触する人の数が少ないかもしれない。一方、高齢者は昔流行したソ連風邪やスペイン風邪のH1N1に対して交叉免疫をもっており同じH1N1である今回の豚インフルエンザに対しても免疫をもっている人が多かったために発症あるいは重症化し難いのかもしれない。あるいは、若者や子どもは病院に行って診断を受けることが多いが、高齢者は症状があっても病院に行くことが少なければ、豚インフルエンザは小児に多く、高齢者には少ないように見えてしまうかもしれない。

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