危機管理の基本:その⑥ 感染経路は?

ヒト―ヒト感染するか?

 「ヒトからヒトに直接感染するか?」をアウトブレイク早期に判断することは極めて重要である。更に感染性が強く、致死率も高い場合、患者隔離、さらには患者と接触した者を隔離するなどの対応を直ちに取らなくてはならない。
 患者と接触のある人が発症するので判る。どれくらい濃厚な接触をするかで、その感染経路や感染力もある程度推測される。まずフォーカスするのは患者家族だ。同じ家族でも患者の看病をした場合に発症し、同じ屋根の下で生活しただけでは発症していない場合、「濃厚な接触」により感染すると想定される。医療従事者も注目すべき。自宅より入院中の方が患者の具合が悪いことが多く、ということは体内のウイルス量が多いかもしれず、感染力は強いであろう。しかし、この場合、マスク、ゴーグル(結膜からの感染を防ぐため)、ガウン、手袋でかなり予防できる。一方、同じ屋根の下に暮らす家族内での発症は「軽い接触」でも感染するような病気、例えば感染性胃腸炎が乳幼児から親に感染するなど、でみられる。乳幼児のおむつを替えた後に手を洗わなかったりすれば、そのままサンドイッチを手でつかんで食べれば感染の機会があるであろう。「飛沫感染」は、鼻水、くしゃみ、咳などの飛沫を吸い込んでしまうことによる。大きな飛沫はすぐに地面に落ちるが、細かい飛沫はしばらく空中を漂う。そのため、大きな飛沫の吸引はマスクで予防できるかもしれないが、細かい飛沫はマスクのわきから吸い込んでしまう。家族内だけではなく、学校などの集団(インフルエンザのように学童が好発年齢であれば尚のこと)発生があれば飛沫感染が疑われる。患者の飛沫に結核菌が混ざっていた場合、結核菌は比較的乾燥にも強いため、飛沫が乾燥しても床に落下して死滅することなく、しばらく粉塵のように漂う。ある学校の教師が開放性結核であった場合、その教員の授業を受ける生徒は結核感染のリスクを負う。仮に、その教室で次の授業が別の教師によって行われたとしても、授業を受ける生徒は結核感染のリスクを負う。このような場合、空気感染と呼ばれる。

以下のようなアウトブレイクの感染経路をどう考えるか?

 1976年7月21日~24日、フィラデルフィアのホテルで会議が開催された。8月2日、参加者の間で重症肺炎のアウトブレイクが発生していることが明らかとなり、ペンシルバニア保健局は調査にのりだした。7月1日以降ホテルに入ったか会議に参加した人で7月1日から8月18日までに38.9度以上の高熱と咳、あるいは熱と胸部X線で確認できる肺炎罹患をケースと定義した。地域はペンシルバニア州全体とし、病院に電話あるいはホットラインを設け、182人を同定した。そのうち29人が死亡(致死率16%)。ケースの149人が会議に参加しており、84人の患者は同ホテルに宿泊。一方39人は会議にも参加せず、ホテルにも宿泊していなかったが、ホテルのすぐそばに住んでいた。
流行曲線からは原因物質に一過性に曝露されたような状況が疑われた。調査によりロビーで時間を過ごした人が明らかに患者側に多かったが、患者と同室者や患者の同居家族(会議に参加せずホテルにも泊まらず)から患者発生は無かった。

 以上よりこの感染症はホテルのロビーあるいはその周辺への空気感染であると判断した(N Engl J Med 1977;297:1189-97)。空気感染だからといって結核のように人から人に感染するとは限らない点にも注意していただきたい。原因であるレジオネラ菌は後に発見される。

 性交渉によって感染する場合、誰から誰が感染したかをトレースすることができる。蚊などの節足動物を介する、動物からの直接感染が疑われるか(人畜共通感染症)場合には発症前の行動などを詳しく尋ねることによってあたりをつけることができる。人から人に直接感染しない場合には、家族内感染は少なくなり、院内感染は理論上なくなる。

以下のようなアウトブレイクの感染経路をどう考えるか?

 1977年夏から秋にかけてコネチカット州の川周辺で43人(主に小児)がリウマチ性関節炎症状を示した。うち9人はダニにかまれたと証言。発症の3~20日(平均12日)前に咬まれている。患者たちの間では、64人の近隣住人と比較して、猫や家畜をかっている場合が多く、しかも動物にダニがいることに気付いている場合が多かった。コネチカット川の東で病気が多発しており、西のおよそ30倍である(Am J Epi 1978;108:312-21)。しかも、東では動物にいるダニが西の15倍多かった(Am J Epi 1978;108:322-27)。この時点で病原体そのものは発見されていないが、動物との接触を避ける、ダニを駆除する工夫をして感染症は終息した。

 終息した後にライム病として病原菌が発見されている。これも病原体が発見される前に、感染経路を割り出し、アウトブレイクを早期に終息させ得た好例であろう。

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