危機管理の基本:その④ 流行曲線を分析せよ

感染流行曲線-拡大速度は速いか?

 横軸に日にちをとり、縦軸にその日(あるいは時刻、週、月、年)に発症した人数をとる。最初の患者よりしばらく前から今までを調査期間とし、アウトブレイク患者の発生地域を包含するよう地域を設定する。アウトブレイクのきっかけとなった患者をインデックス・ケースと呼ぶが、これが事態終息の鍵を握ることがある。例えば最初の患者はコウモリから感染し、ヒト‐ヒト感染の経路で拡大していくなど。この点を明らかにすることにより、中長期的予防策を講じることができるようになるからだ。また、ピークを越えたのか、それとも未だに患者は増え続けているのかの見極めも重要である。ピークを越えれば現状維持でも、やがて事態は終息するであろう。しかし、増え続けていれば、早急に有効な策を打ち出すべき。でないと更なる犠牲者をだすことになる。

  流行曲線から伝播経路など様々なことを推測することができる。いくつかの典型例を示す。

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  ボックス内の数字は患者診断番号である。このようにしておくと、個々の患者の詳細を照会するとき便利だ。例えば最初に診断された患者(#1)は15日に発症している。しかし5番目に診断を受けた患者の方が実は先に発症(12日)しており、インデックス・ケースということになる。そして疫学的には最初に診断された患者ではなく最初に発生した患者の方が重要な意味を持つ。16日に発症ピークをむかえ、以後漸減し、23日を最後に、患者発生をみていない。1つのピークをもつやや左に偏った、しかしなだらかな流行曲線をもつアウトブレイクは、原因物質に一過性に暴露された場合、あるいは原因物質が既に取り除かれたような場合に多い。人から人に感染しない食中毒が代表例である。

 先に示した流行曲線と対比して、下図のような場合、どのような状況が想定されるか?

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水が汚染されている、ある食品が汚染された状態で、それが改善されていないような状況(継続発生源)が考えられる。

下図をどう分析するか?

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  人から人への感染が示唆される。10日に発症した患者は15日から17日に発症した4人に感染させたのであろうし、このうちのだれかは21日から25日に発生した11人に感染させ。。。というふうにも読める。しかし潜伏期間が短い場合、山と山が重なり合うため、このように判りやすいパターンにはならないだろう。

  図は麻疹(はしか)の流行曲線である。2005年5月15日、17歳少女がルーマニアよりアメリカ・インディアナ州に帰国した。彼女は麻疹ワクチンを施行しておらず、ルーマニアで感染を受けてしまっている。もちろん本人も周りも麻疹ウイルスの感染を受け潜伏期間にあることなど知る由もない。5月16日、教会で500人規模の集会に参加。同日深夜に麻疹を発症。この参加者の中から19人(うち16人はワクチン未接種、1人は最初の患者宅を訪問し感染)が発症。これが家族内感染を起こし、のち16人が発症。少し遅れて2人が発症し、流行は終息した。最後の2人のうち1人は家族内感染であったが、1人は病院職員であった。NEJM 2006;355:447-55

  下の流行曲線の特徴を述べよ。

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  インデックス・ケース発症から8日~16日の間に大きなピークがある。これは教会での集会で感染した(図白)ものだ。まさに潜伏期間である。また麻疹患者は発症前から強い感染力を有することが理解できる。次いで、この患者らが家族に感染させ(図グレイ)、これが第二の低いピークを作っている。そして第三のピークは極小さなものにとどまっている。多くの人が既感染ないしワクチン接種済のため、あるいは患者が隔離されたり、麻疹アウトブレイクの情報により人々の行動も変わり、終息に至ったのであろう。1人病院スタッフがかかっているが、ワクチン未施行だとしたら問題だ。

  先進国の麻疹アウトブレイクは、本ケースのように輸入例がほとんどである。日本でも2000年には麻疹が20~30万人いたのに対して、ワクチン接種率の向上により2010年には500人を割るところまできた。麻疹死亡例も2000年の100人から、ほぼゼロを達成できる計算だ。

 

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