UAEで顕在化するテロ・リスク

 アラブ首長国連邦(UAE)は中東のなかでも治安が良く、国情が安定している国として知られている。サウジアラビアやクウェートでは、2015年に自爆テロ事件が相次いで発生し、多数の死傷者を出すなど治安情勢が悪化している。一方でUAEでは、2010年にドバイの高級ホテルでパレスチナのハマース幹部がイスラエルのスパイに殺害されるような事件はあったが、これまでのところ自爆テロのように市民を巻き込む事件は起きていない。しかしながら、最近ではUAEでさえ「イスラーム国」をはじめとする中東地域でのテロ活動の活発化と決して無縁ではいられなくなっている。「アラブの春」後、UAEでは治安当局によってムスリム同胞団関係者やテロ容疑者が相次いで摘発されている。裁判報道を見ていると、その真偽は別にして、UAE国内でテロが計画されていたり、またUAEを拠点として国外のテロ組織へ支援が行われていることが明らかになっているのだ。

 2015年の裁判で白日の下に晒された事件のなかには、「シャバーブ・アル=マナーラ」がある。この組織は、カリフ制国家の樹立を目的にUAEの体制転覆を目論み、またショッピング・モールやナイトクラブ、大みそかのイベント等の襲撃を計画していたとされている。41人の被告のうち、実に39人がUAE人であったように、最近ではUAE人の関与が疑われる事件も目立ってきた。2014年12月には、アブダビのショッピング・モールで米国人女性が殺害される事件が起きたが、過激派思想に傾倒したUAE人女性の犯行であった。その後、犯人は裁判で死刑判決を受け、すでに刑は執行されている。さらに、犯人の夫もアブダビのF1サーキットや商業施設を標的とした7件のテロを企図していたとして、現在も裁判が続いている。

 外国人によるテロ支援活動もUAEを舞台として行われている。昨年、UAE在住のインド人女性がウェブ上で「イスラーム国」の勧誘を行っていたとして、国外追放された。また、「イスラーム国」やアル=カーイダ、シリアのヌスラ戦線、レバノンのヒズブッラー、イエメンのフーシー派など、UAEが「テロ組織」と認定する団体へ資金を提供したとして摘発される外国人の数も少なくない。恐らく、全人口の90%が外国人であるUAEに紛れ込むかたちで、支持者たちが活動しているのであろう。

 仮にUAEでテロが起きれば、「安全なUAE」というイメージが損なわれ、観光客数は大幅に落ち込むだろう。さらに、ドバイが有している商業・貿易・金融のハブ機能へのダメージも避けられない。UAE当局は高度な治安体制を敷いていると主張しており、それが事前のテロ計画の摘発つながっているのかもしれない。しかし、一方でUAEそのものがテロの標的になっているということも忘れてはならない。UAEには3,500人を超える在留邦人(2014年10月現在)がおり、その数は中東最大である。そのため、リスク管理の観点からもUAEにおけるテロ・リスクを改めて評価することが求められている。

前のページに戻る