イラクにおける安全対策

 イラクの国土の一部が過激派組織「イスラーム国」に占拠されて1年半が経ち、今も各地で戦闘が続いている。メディアではイラクは戦争中の国として報じられることが多いが、他方で現在も、外交官や援助関係者、ジャーナリストはもちろん、ビジネスマンや学術関係者、宗教聖地を訪れる観光者などがこの国を頻繁に訪れている。

 というのも、イラクの治安状況は国土全体で一様ではないからだ。ビジネスマンも観光客も、もちろん「イスラーム国」の支配地域や戦闘が行われているようなところ、具体的にはイラクの中部地域に行くことはない。だが南部や北部では通常の市民の暮らしが営まれ、経済活動が行われている。そこに様々な業務に従事する外国人の姿は珍しくない。同じ国といえども、地域によってその様相は大きく異なるのだ。

 とはいえ、安全の定義はあくまで相対的なものであり、安全対策が不要だということを意味するものではない。特に先進国からイラクを訪れるビジネスマンの場合、高額だが民間警備会社と個別に契約を結んで、入国から出国まで武装したボディガード数名に護衛されて移動することがほぼ常識となっている。場所によっては必ずしもボディガードを雇わないケースもあるが、それでも、セキュリティ体制の整った宿泊先を選ぶ、不測の事態に遭遇した時に備えて病院や医療事情を調べておく、常に地元の人と行動を共にする、等の対策は不可欠だ。

 イラクの場合は国土の一部で戦闘が行われている以上、その前線がどこにあるのか、前線と自分の滞在地との間の距離が変わっていないか、といった最新情報を掴んでおくことは極めて重要だ。だが、最大のリスクは必ずしも戦闘に関連するものとは限らない。非戦闘地域におけるそれは、往々にして交通事故だ。道路が未整備な上にマナーが悪く、イラクの交通事故発生率は日本の数倍に上る。また、外国人はしばしば、身代金目当ての誘拐の標的になりやすい。近年の油価下落で財政状況が悪くなっているのは政府から犯罪集団まで同じであるため、特にこのリスクは最近増していると思っておくべきだろう。その他、急な飛行機のキャンセルや空港の閉鎖に備えて、移動の代替ルートを考えておく、あるいは代替ルートを使って移動すべきか、それとも留まるべきかを検討しておく、といった準備も必要になる。

 そして、こうした安全対策の必要性は、イラクのように戦闘が行われている国に行く場合に限られない。中東・北アフリカ諸国のいずれにおいても、程度の差こそあれ共通したリスク要因であり、安全対策として検討しておくべき事項であろう。

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