最近の湾岸諸国における治安情勢 

 イラクとシリアを拠点とするテロ組織イスラーム国の活動はいぜん活発であり、とくに今年5月ごろからサウジアラビア、クウェートといった従来、イスラーム国のテロが発生していなかった地域で大規模な事件が起きている点は要注意であろう。

 サウジアラビアでは5月に連続して東部州のシーア派モスクが自爆テロで襲われ、6月には隣国クウェートでもシーア派モスクが標的となった。イスラーム国はサウジアラビアを重要な標的とみなしているが、彼らの声明ではサウジアラビア国内における標的としての優先順位は「シーア派」「サウード家・サウジ軍」「西側諸国」の順番になっており、サウジアラビアでのテロはまさにこの優先順位にしたがっているといえよう(7月には刑務所、8月にはイエメンと国境を接する南部の治安部隊が攻撃を受けた)。

 また、8月には安全と思われていたアラブ首長国連邦(UAE)でイスラーム国シンパとされるグループが摘発されている。UAEでは昨年、同国人女性による米国人殺害事件が発生していた。実はここでも宗教的な動機が指摘されており、近年欧米等で深刻な脅威となっている「ローンウルフ」的犯行として注目を集めている。

 カタルではテロの予兆はほとんど見られないが、ロシアの対シリア軍事介入を受け、同国の対シリア政策にも何らかの影響が出ることが考えられる。さらに、湾岸諸国のイエメンへの軍事作戦も出口が見えない状況である。そのなかでサウジアラビア、カタル、UAEの3国はイエメンに地上部隊を派遣、すでに多くの犠牲者を出している。今後、さらに犠牲者が増えるような事態となれば、内政に悪影響が出てくる可能性も否定できない。

今年1月以降のシリアでの日本人人質事件以来、イスラーム国など過激なジハード主義者組織のなかでは、日本を「十字軍」連合と同一視する見かたが一般化しており、9月に発行された機関誌『ダービク』でもそのことが明示されていた。10月はじめにバングラデシュで日本人が殺害され、イスラーム国が犯行声明を出したケースは、これまであまり注目を集めていなかった国にまでイスラーム国の危険性がおよんでいるというだけでなく、どこでも日本人が標的となりうることを再確認する事件であったといえる。豊かな産油国を中心とするGCC諸国には、日系企業も多数存在する。それらの国ぐにでは今すぐ体制が揺らぐ可能性は低いにしても、イラク・シリアやイエメンなど周辺地域の情勢如何では、テロなどの危険が波及する恐れも否定できず、イスラーム国の声明などには細心の注意を払う必要があろう。

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