危機管理の基本:ケース ハンブルグ④

◆問題
 国は6月10日にスプラウトが原因であろうことを公にし、生産者Aを閉じさせた。下の流行曲線から、そのアクションは効果があったと思うか?

2図

◆回答
 6月10日前後で流行状況にあまり大きな変化は読み取れない。流行のピークは5月22日である。生野菜をあまり食べないようにというアナウンスは5月27日ということを考えると、事前にそのようなうわさが流れ、レストラン側がスプラウトを含めた生野菜を出さない、消費者も自主的に生鮮品を食べないようにしていたのではないか?その場に居たわけではないので想像に過ぎないが。あるいは、生産者Aの仕出すスプラウトの、あるロットにだけ大腸菌が増えていて、そのため限られた期間の流行となったとも考えられる。そうするとあとから立ち入り調査をしても大腸菌は検出できなくても不思議ではない。大阪堺市のケースでもO157は給食等から検出されなかった。

 このO104アウトブレイクで、ドイツで3,816人が発症し、845人(22%)がHUSを合併し、54人が死亡した。O157のHUS合併率が5~10%程度とするとO104がいかにやっかいな感染症であるか理解できる。

◆問題
 O104の予後はO157よりも更に悪かった。今回のアウトブレイクの原因となった大腸菌を解析したところ、従来とは異なる毒性を示す遺伝子、抗生剤耐性遺伝子を含み持っていた(NEJM 2011; 365: 709-17)。これらの遺伝子は大腸菌間で遺伝子のやり取りにより獲得したもので、従来毒性が弱かった大腸菌にも感染し、ドイツであったような大規模かつ広域の食中毒を引き起こしかねない懸念がでてきた。本疾患に対して特効薬がないことから医療の介入できる部分は必ずしも多くない。この点も念頭に入れ、今後どのような対策が必要か?

◆回答
 このケースと同時期に日本では焼き肉チェーン店のユッケを食べO111で死者がでた。しかし、牛肉などは火を通せばよい。一方、生野菜などでは、どうやって病原性大腸菌のリスクを下げるかの課題が多い。しかも、本ケースでみられたように毒性を上げるような遺伝子が簡単に菌種間で広がるとしたら、また食品産業が大規模になった昨今、そのループに一端このような菌が入り込むとその影響は極めて広域に及び、社会的混乱を引き起こす。実際、スペイン産のきゅうりが原因という噂が流れ、輸入停止、さらには国家間問題にまで発展した。

 このケースを振り返ったとき、極初期にレストラン・コホートを行い、生産者Aを同定し、適切な対応をしていれば死者数は劇的に少なかったであろう。今後日本でも似たような事例は発生する可能性が高く、対岸の火事に学ぶべきである。少なくともサーベイランスシステムを改良して、2人以上のクラスターでも迅速に反応できるようにするべきだ。

 

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