危機管理の基本:ケース ハンブルグ①

 あなたは、ドイツのベルリンにあるコッホ研究所の研修生である。2011年5月19日、ハンブルグにある大学病院に3人の小児が病原性大腸菌感染から溶血性尿毒症症候群(HUS)のため同日入院したとの報告を受けた。あなたは他のスタッフとその病院に調査に赴くことになった。

◆O157に代表される病原性大腸菌感染症
 潜伏期間はおよそ3日(2日~12日)。最初は血液の混ざらない下痢で発症する。1~3日後に多くの症例で血液が混ざるようになる。ここで医療機関を受診することが多い。
 基本的に無熱。腹痛は他の細菌性腸炎よりも強い。特に大腸が冒されるからだ。便培養検査で診断を確定できる。このとき抗生剤、腸管機能を抑制するような薬剤、麻薬性鎮痛剤、非ステロイド性抗炎症薬は使用するべきではないとされている。抗生剤は腸内にいる病原性大腸菌O157を破壊し、内毒素が一気に吸収されるからであろう。麻薬性鎮痛剤も含めて腸管機能を抑制するような薬剤を使用すると、腸内での病原性大腸菌O157滞留を許すためか、溶血性尿毒症症候群合併リスクを挙げると云われている。非ステロイド性抗炎症薬は腎血流を減らし、溶血性尿毒症症候群合併リスクを上げるためである。10歳以下の小児では、15%以下に溶血性尿毒症症候群を合併する。

◆調査チームは以下の点を把握した
①2011年5月上旬から志賀(ベロ)毒素陽性大腸菌による出血性腸炎のアウトブレイクが始まり、その重症合併症であるHUSが多数みられている
②その発症リスクはドイツの北にある2つの都市、ハンブルグとブレーメンで高い
③これらはレストランやカフェテリアに食材を提供しているある配膳業者と関係している。その結果各地で発生がみられる
④解析した214例のうち87%は18歳以上。多くは若者~中年男性で女性に多い(68%)(通常は小児に多い)
⑤最近ドイツ北部を訪れた旅行者がEU各国でHUSあるいはベロ毒素陽性大腸菌による出血性腸炎を発症している
⑥この病原性大腸菌の血清型は従来のO157とは異なりO104でベロ毒素2 を産生し、第三世代セフェム系抗生剤を含む広域抗菌剤に耐性である
⑦未だに患者報告が増え続けており原因はまだ残っている。さらにケース・コントロール研究の結果から、5月9日から25日にかけて発症したこと、さらに生のトマト、キュウリ、緑色野菜が原因食材と考えられる。
(Eurosurveillance 2011 May 26)

◆問題
 前回の調査では生野菜が怪しいというところまでつきとめたが、どの食材かが煮詰まっていない。そこで、5月29日から6月4日にかけて再度、ケース・コントロール研究を行った。

 ケースはHUSでブレーメン付近の3つの病院に入院した患者。コントロールは年齢をマッチさせた近所の住人とし、発症前14日間(コントロールはケースと同じ期間)に食べた内容を聞いて表にまとめた。どのように分析するか?
(NEJM 2011; 365:1771-80)

 

ケース

n/合計(%)

コントロール

n/合計(%)

マッチした

オッズ比

 

p値

スプラウト

6/24 (25)

7/80 (9)

4.35

0.04

キュウリ

22/25 (88)

52/79 (66)

3.53

0.06

リンゴ

22/24 (92)

57/81 (70)

3.91

0.08

コショウ

16/24 (67)

35/80 (44)

2.66

0.08

イチゴ

19/26 (73)

43/81 (53)

2.33

0.08

※牛肉も含めた他の食材はp値0.10より大きかったため表中には掲載せず。

◆回答
 統計学的に有意なものはスプラウトだけであった。しかし24-6=18人はスプラウトを食べていないのに発症している。そのため、統計学的に有意であってもスプラウトが原因とは結論できない。

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