ニパ脳炎(3)

1999年3月、マレーシア政府は病気の発生した地域のブタとヒトを分離し、ブタは処分し、養豚場も破壊している。もし感染経路がブタからヒトだけであれば、患者数は減少に転ずるはずである。しかしヒトからヒト、あるいは他の感染ルートがあれば、感染は終息しないかもしれない。この見極めをしなくてはならない。そこでチームは感染流行曲線を描くべく毎朝病院をたずねて患者数を調査した。さらに新規入院患者の出身養豚場を訪ねインタビューした。その結果、まずブタが病気になり、その2~3日後ヒトが病気になることが判った。下の表は、患者(ケース)と患者が発生した農場で病気にならなかったコントロールを比較したものである。

  患者(N=48) 対象(N=107) OR 95%CI
男性 36/48 55/107 3.29 1.44-7.53
職業
 養豚業 40/48 71/107 3.49 1.24-9.81
 家事 2/48 10/107 0.32 0.07-1.42
 学生 8/48 38/107 0.24 1.10-0.60
住まい農場あり 39/48 86/107 1.31 0.32-5.33
農場で仕事をしている 44/48 76/107 8.79 2.53-30.6
農場で豚と接触 42/44 70/76 1.57 0.30-8.18
農場で病気の豚と接触 30/42 30/73 3.69 1.49-9.14
農場で特殊な仕事
 養豚場の掃除 42/44 70/76 1.48 0.24-9.15
 豚の体を洗う 43/44 71/76 1.11 0.17-7.26
 豚に餌をやる 39/43 58/74 3.86 1.16-12.9
 子豚の処置 23/44 20/76 2.95 1.21-7.21
 豚の種付け 21/43 12/75 3.37 1.34-8.45
 豚の出産介助 22/44 13/73 4.42 1.66-11.8
 病気の豚の治療 29/44 21/75 3.10 1.47-6.56
 死んだ豚の処置 29/43 27/76 3.89 1.60-9.44

(1)この表を分析せよ。河川をひいた数値は統計学的に有意差あり。

(2)どのような感染経路が考えられるか?

(1)男性、養豚場主であることが多い。逆に学生は病気になりにくい。主婦で病気になったのは2人だけである。ケースはブタと共に働いている場合が多い。単にブタと接するだけはリスクとならないが、病気のブタと接すると病気になりやすい。ブタとの接触も、単に豚舎やブタを洗うだけでは感染リスクは少なく、ブタに餌をやる(豚は餌をもらうとき鼻息が荒くなり気道粘液が飛び散りやすい)、出産の処置、種付け、注射など医学的処置、死亡したブタの処理に立ちあうとリスクが上昇する。

(2)ブタの飼育中、気道分泌物の飛沫を吸い込むなどの機会に感染するのだろう。妻や学生で患者が多くないということは、患者の看護したであろう家族内感染の機会は少ないと解釈でき、ヒトからヒトへの感染の可能性は低い。しかし、このデータからヒトからヒトへの感染を100%は否定できないため、患者看護をする場合には防護服、手袋、マスク、ゴーグルくらいは必要と思われる。

1999年2月から6月の間94人のニパ・ウイルス感染患者がみられた。93%は豚に直接接触があり、その後2週間程度で発症する。主な症状は発熱、頭痛、めまい、嘔吐。55%の患者は意識レベルの低下があり、ミオクローヌス、反射消失、筋緊張低下、高血圧、頻脈など脳幹の機能不全の徴候がみられた。致死率32%。命を取り留めた場合でも15%に神経学的後遺症を残した。 (NEJM 2000; 342: 1229-35)。

コウモリの糞便中のヘンドラ・ウイルス陽性率を調べると雨季は9%だが乾季の5月から9月は30%に増える。実際アウトブレイクも7~8月に比較的多い。何故ウイルス陽性率が乾季に増えるかは十分わかっていないが、乾季は南半球の冬にあたり果物などの食料が不足すること、乾季にコウモリは妊娠出産することなどが考えられる。特にエルニーニョや温暖化の影響で大雨、洪水、干ばつなどで自然環境が破壊されると、おそらくコウモリの餌不足、栄養不良、免疫低下などを招き、コウモリのもつウイルス量が増え、アウトブレイクにつながりやすいのではないかと思われる。また森林面積が失われつつある点も見逃せない。エボラ出血熱もオオコウモリが自然宿主であるが、やはりアウトブレイクは乾季に多い。

前のページに戻る