民進党勝利後の中台関係 両岸関係は不安定化するもしばらく安定

 1月16日に実施された台湾総統選・立法院選では、予想されていた通り、民進党の蔡英文が他の二候補に大差をつけて新総統に選出され、立法院(国会に相当)では、民進党が過半数をこえる68議席(定数113議席)を獲得した。総統府と立法院の両方を民進党が支配するのは初めてであり、台湾政治史に残る選挙となった。

また、今回の選挙では、民進党の躍進だけでなく、国民党の凋落ぶりが目立った。国民党が「中華アイデンティティー」を強調し、中国との関係を重視する党であることから、日本のメディアなどでは、民進党の勝利は台湾民衆の反中意識の高まりによるもの、と解説する向きが強い。それは間違いと言わないまでも、それを強調しすぎると、台湾社会の現実や民衆の動きを見誤ることになる。確かに、台湾の人々の「台湾アイデンティティー」は強まる一方であり、大陸との統一に対し否定的な意見を持つ人が増えている。急激な中台接近は、中国に飲み込まれるのではないかという懸念を引き起こし、さらに、中国国内の人権状況や香港に対する大陸の政治介入は、台湾民衆の対中イメージを悪化させた。しかし同時に、台湾の多数派は、現状維持と中台関係の安定を望んでいるのであり、この点は日本人の対中スタンスともよく似ている。今回の選挙における国民党の大敗は、対中政策に対する非難というより、国内政策の失敗や、国民党が台湾に登場しつつある新しい市民社会に対応できなかったという要因の方が大きい。

 新総統となる蔡英文は、2012年の総統選では馬英九に敗れたが、そのときの敗因の一つが、いわゆる「92年合意」(「一つの中国」原則。中国側は中台関係の土台であるとしており、これを認めない限り中台関係の安定はないとしている。台湾国民党は、原則は認めつつ、その解釈は中台で異なるとしている)を否定したことにあるとされる。今回の選挙でも、国民党は、蔡英文に「92年合意」についてどのような立場を取るのか執拗に追及したが、前回の選挙時と違い、蔡は曖昧な態度を維持して立場を明確にしなかった。さらに、選挙キャンペーン中には「(独立色を強く出して、アメリカから“トラブル・メーカー”とみなされた)陳水扁元総統の失敗は繰り返さない」と述べ、中国を刺激する言動を控えた。今後も、中台関係の安定を望む台湾民衆や、国際社会(特にアメリカ)の要望に応えるためにも、蔡英文が台湾の独立色を強く打ち出していくことはないと予想される。

 他方、中国にとっては、民進党総統の誕生はあきらかに歓迎できない事態だが、選挙結果があらかじめ予想されていたこともあり、抑制的な対応を示した。5月に蔡英文が総統に就任するまで、どのような政策を打ち出すか静観する構えである。さらに、習近平政権にとって、いま最優先すべき課題は、中国経済の安定、反腐敗闘争の成功、そして南シナ海での危機回避である。台湾側が非常に独立色の強い政策を打ち出さない限り、両岸関係を一気に緊迫化させるような政策はとらないだろう。むしろ、経済面での制裁的措置や、国際社会での台湾の活動を制限することなどにより、次の台湾選挙で親中派勢力を支持する声が強まるような方法をとっていく可能性が大きいと予想される。

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