高病原性鳥インフルエンザ(5)

疫学研究をしたところ以下のような結果を得た(コホート研究.pdf)。あなたは結果をどう分析するか?グループAは54歳男性患者(発症6日で入院、両側肺炎、診断確定前に死亡:通常の予防法程度でマスク、ガウン、手袋などは使われていない)に暴露、非暴露を比較、グループBは6歳女性患者(発症6日で入院、両側肺炎、14日目に診断、その後マスク、ガウン、手袋の予防を開始。31日目に死亡。)に暴露、非暴露を比較、グループCは3人の小児患者の少なくとも1人に暴露、非暴露を比較。この3人の症状は軽く、合併症も無かった。3人中2人は呼吸器感染用の個室に隔離されていた。

グループA、Bでは診断がつくまでちゃんとした予防措置がとられていなかった。グループAでは非暴露群が0.5%の抗体陽性率なのに対して、暴露群では5%であった。10倍の開きがあり有意である。グループBでは3%対4%で有意差なし。グループCは小児病棟のケースであるが、患児の症状が軽かったためか、だれも抗体価の上昇を認めたものはいない。合計で暴露群から8人(4%)の陽性、非暴露群から2人(0.7%)の陽性であった。STATAで確認すると以下のようになる。女性が暴露群で若干多いようである。暴露群、非暴露群で家禽との接触率はそれぞれ56%、61%で差が無い(家禽との接触が交絡していることは考え難い)。逆にグループA, B の非暴露群で1名づつH5N1の抗体陽性者がいるが、院内感染ではなく、家禽との接触のせいかもしれない。

. csi 8 2 209 307
  Exposed Unexposed Total  
Cases 8 2 10  
Noncases 209 307  516  
Total 217 309 526  
Risk .0368664 .0064725 .0190114  
  Point estimate [95% Conf. Interval]
Risk difference .0303939 .0037759 .0570118
Risk ratio 5.695853 1.221409 26.56172
Attr. frac. ex. .8244337 .1812737 .9623518
Attr. frac. pop .6595469    
  chi2(1) = 6.31   Pr>chi2 = 0.0120

リスク比5.7 95%信頼区間1.22 ~ 26.56

患者が比較的重症だったグループAとBにだけ絞って解析すると

. csi 8 2 170 238
  Exposed Unexposed Total  
Cases 8 2 10  
Noncases 170 238 408  
Total 178 240 418  
Risk .0449438 .0083333 .0239234  
  Point estimate [95% Conf. Interval]
Risk difference .0366105 .004074 .069147
Risk ratio 5.393258 1.159326 25.08978
Attr. frac. ex. .8145833 .13743 .9601431
Attr. frac. pop .6516667    
  chi2(1) = 5.87   Pr>chi2 = 0.0154

これでも5.4倍暴露群の方が抗体陽性率が高いことになる。

抗体が陽性になった10人について詳しくみてみることにする。どう分析するか?

非暴露群の2人(#6, #9)のうち1人(#9)は家禽との接触がある。暴露群で陽性のもの8人(#6,#9以外)のうち、家禽と接触のあるものは5人(#1, #4, #7, #10)。家禽と接触の無い3人(#2, #5, #10)のうち2人(#2, #10)は最初抗体が陰性であったものが陽性に変わっている(sero-conversion)。そのうち1人は患者と接触後に呼吸器疾患に罹患している(#10)。他にも暴露群に3人呼吸器疾患を患者と接触後に発症している。

この結果からあなたはどう結論するか?特に「人から人への感染性があるのか?」「無症候性感染はあるのか?」のキークエスチョンには少なくとも回答すること。

人から人への感染は起こり得る。家禽と接触した人は、そちらからの直接感染を否定できないが、家禽と接触歴の無い2人はsero-conversion しており、そのうち1人は患者と接触後に呼吸器疾患に罹患している。この事実は患者から病院スタッフに感染したことを強く示唆する。抗体陽性も、重症だった患者をしっかり予防措置をとらずにケアしていたグループA、Bに高く、症状も軽く少なくとも3人中2人は隔離していたグループCから陽性はゼロであったことも、人から人への感染を示唆する。 sero-conversion した2人のうち1人では呼吸器症状を認めていないことから、無症候性感染はあり得る。

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