SARS(3)

香港アモイ・ガーデンにみるSARS集団発生

 WHOがSARS緊急事態を告げる中,香港の高層団地においてSARSの集団発生があった。 3月14日と19日に既にSARSを発症していた33歳男性は,香港の九龍湾の牛頭角道にある高層住宅「アモイ・ガーデン」E棟の弟宅を訪ねた。この男性は慢性腎疾患のためプリンス・ウエールズ病院にかかっていたが、この弟宅を訪ねたときにはSARSを発症しており、下痢のため頻回にトイレを使用した。この高層住宅には15,000人以上の人々が暮らし,19の建物によって構成されていた。塔と塔の間も1.5m程度と非常に近接するいわゆる密集した巨大団地である。特にE棟での被害が著しく,アモイ・ガーデン全体におけるSARS入院患者数が213人であったのに対してE棟からは107人(47%)の感染者発生が集中していた。さらに,E棟の両隣のD棟,F棟にも被害が及んだ。この話だけ聞くと,SARSは接触感染というよりは空気感染を連想させる。

 香港政府はアモイ・ガーデン住人に対する緊急隔離措置を決定した。3月31日早朝6時、10台以上のパトカーが建物を取り囲み、100人以上の警官が動員された。そして、アパートへの人の出入りを完全ブロックしたのである。この警官たちは、全員マスクと手袋を装着し、200人以上の保健局のスタッフはマスクと手袋以外に白い帽子とガウンをまとい、さながらSF映画でもみるかのようであった。そして住人は別の住居に強制転居させられたのである。食事は政府から配給されたが、刑務所に収容されたわけではないのに突然社会と隔離されてしまったのだ。しかし、半数の住人は隔離の話を聞いてアモイ・ガーデンには居なかった。すでに夜逃げしていたのである。 しかし,住民を10日間他の宿泊施設に移動させている間調査した結果によると,各フロア同一位置にある部屋をつなぐ下水管に問題が検知されたのだ。1つはバスルーム掃除を,水を使用せずに掃除するためU字管水トラップに水貯留がなく,他の部屋の下水のしぶきなどが,他の部屋に逆流・侵入した可能性が指摘された。病院でもネブライザーがSARSウイルスをあたかも空気感染するかのように伝播させた。状況は似ている。そのため,バスルームに臭いにおいが立ち込めることも多かったようである。また,バスルームの換気口は外部に開通,さらにE棟4階の下水管内パイプに割れ目が見つかった。このアモイ・ガーデンにおける集団発生では、下痢症状が多かった点が注目される。

SARS流行の終息

2003年7月5日、台湾で発生したSARS可能性例を最後にSARS新規感染例が途絶え、WHOはSARSの終息宣言をだした。この最後のSARS可能性患者は、6月15日から隔離されたが、10日間の潜伏期の2倍の期間が経過したにもかかわらず新規SARS患者が発生しなかったことからの宣言である。2002年11月16日広東省ではじまった流行は、916人の死亡を含む8422人のSARS可能性例を生んだ。そのうち349人の死亡を含めた5327人のSARSは中国本土から発生している。情報を隠ぺいした代価は大きい。その後WHOは「疾病の国際的広がりを阻止し、制御し、公衆衛生上の対処を講じるとともに、国際輸送と貿易に対する不必要な障害を取り除く」ために国際保健規則(IHR)を2005年に改正した。

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