中国で「反テロ法」成立 強まる社会統制

 2015年12月27日、全国人民代表大会常務委員会(第12期第18回会議)で、反テロ法が可決され、2016年1月1日から施行されることになった。14年11月の「反スパイ法」、15年7月の「国家安全法」、そして今回「反テロ法」が制定され、社会への統制を強めようとする中国政府の姿勢が顕著である。加えて、現在は海外NGOの活動を制約する法律が審議されている最中である。このような動きの背景には、共産党支配に不満を持つ少数民族の一部が、テロリストと結びつくことへの懸念と、経済成長のスローダウンがもたらす社会不安への備えという側面があると考えられる。

 海外では、反テロ法が外資企業に対しても情報提供を義務付け、報道面での統制を強化しようとしていることに懸念の声が上がっている。それらの懸念は当然として、「反テロ法」が法律として恐ろしく強権的でひどい内容なのかと誤解している人が多いようだが、実はそうでもないのである。中国側が、この法の制定について行った記者会見で、「他国にも同様の規制はある」と話していたことにも表れているように、他国の対テロ法や制度についても相当研究した跡が伺える。

 たとえば、反テロ法では、公安や政府当局がテロの防止及びテロ事件の捜査を行うため、企業に対しログの記録や暗号を提供することを求めており(84条)、また報道機関に対してはテロを煽るような虚偽の報道をすることを禁じている(90条)。批判する立場もあろうが、文言だけを見ると、確かに他国の対テロ法にあってもおかしくない内容である。また、法律では、信仰の自由と民族の風習を尊重し、反テロ政策の実施において宗教、民族、出身地などで差別してはならないという内容や(6条)、反テロ活動のために当該機関が収集した国家機密、商業情報、個人情報を漏洩してはならず、違反した場合は罰せられる(48条)という条項なども含まれている。

 中国の場合、問題は法律の内容にあるのではない。中国で往々にして見られる問題だが、問題は法の運用のされ方にある。どのような行為がテロとなるのか、またその捜査のために必要な情報とはどのようなものか、すべてが当局の恣意的判断によって左右される恐れがある。中国の「法治」とは、当局の行為に、あとから法で後付けを与えるという面が多分にあるのだ。

 たとえば、昨年12月、仏誌のジャーナリスト、ウルスラ・ゴーティエ氏は、新疆ウイグル自治区における中国政府の反テロ政策を批判的に書いたため、国外退去を迫られた。このようなケースが、今後は「反テロ法」を根拠として実施され、「中国の法治が進んだ」と言われるようになるののかもしれない。

 企業にとっては、暗号鍵などを提供するよう求められることは、まさに経済利益にも直結する機微な問題である。日本政府や企業は、他国の政府などとも協力し、そのような要求が、結果として中国経済に及ぼす負の影響を強調しながら、中国に適切な運用を求めていくべきであろう。

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