米国海軍艦艇、南シナ海で「航行の自由作戦」開始 緊張高まる米中関係

 10月27日、横須賀基地に配備されている米海軍ミサイル駆逐艦「ラッセン」が南シナ海に派遣され、中国が「領土」と主張する人工島から12カイリ(約22キロ)以内で哨戒活動を実施した。反発した中国は海軍艦艇を派遣し追尾、監視、警告を行いつつ、米艦艇から一定の距離を保ち、危機的な状況は起こらなかった。米国政府は、南シナ海で「航行の自由」を確保するため、今後も数週間から数か月にかけ、米艦艇の派遣を継続していくと発表した。

 数年来、南シナ海や東シナ海における中国の高圧的姿勢に対し、米国内でも懸念する声が強まっていたが、中国との関係悪化を避けたいという配慮もあり、米国政府は中国を刺激するような強い措置は取ってこなかった。しかし、中国が南シナ海の係争海域に大規模な埋め立てを行い「砂の万里の長城」を築いていることが明らかになると、中国の自制に期待しても状況は改善しないという認識が広がった。

 「サラミ戦略」とも呼ばれる中国の戦略――相手の決定的な対抗策を引き起こすには至らないが、実質的に中国の実効支配を強めていく戦略――に対し、日米はいかに対抗するかで頭を悩ませてきたが、今年の春ごろより、具体的な手段について米国では検討が進められていたようである。5月頃、ペンタゴンは、シナ海で米軍のプレゼンスを示すための具体的な行動をとることを主張したというが、オバマ大統領はすぐにはその案に乗らなかった。しかし先月(9月)の米中首脳会談においても、中国側から前向きな回答は引き出せず、米艦艇が派遣されることになった。

 米艦艇の派遣は「航行の自由」を守るためであり、南シナ海の領土紛争について中立的立場をとるという従来の方針が変わったわけではない。実際には、米国も中国が主張する「九段線」をあまりに貪欲で、主張の根拠に説得力がないと考えているが、他国の領土紛争に関わらないというのが米国の公式な立場である。中国は埋め立て地を領土と主張しているが、国際法における「領土」の要件を満たしておらず、そのような手法で「航行の自由」を阻害することは許さないという立場を示すのが目的であった。

中国の主張を否定するためには、12カイリ内に無害通航ではない方法で入る必要があった。たとえば停船するとか、調査活動を行うなどである。これまで、問題の外交的解決ばかりを主張してきた米国が、実際に艦艇を派遣し中国を牽制する姿勢を示しことで、中国に強い警告を発しつつ、イージス艦1隻を哨戒活動で派遣したのは抑制的で、よく考えられた作戦といえる。

 「ラッセン」は数日間に渡り、中国艦艇から追尾されたが、前述のとおり、中国も一定の距離を保ち、衝突を引き起こすような行動は取らなかった。米国側が12カイリ内に入るという情報は事前に流されていたので、中国側もどう対応するかは準備していたのだろう。

 米国の艦艇が派遣された2日後、米海軍制服組トップのジョン・リチャードソン作戦部長と中国海軍トップの呉勝利海軍上将がテレビ会談を行い、呉上将は、領土領海に関する中国の主張を繰り返しながら、不測の事態を避けるため、同じ海域で軍同士が接近した場合は、あらかじめ決められた手続きに従って行動することに同意した。実効的な危機管理メカニズムの構築が焦眉の急の課題であるにもかかわらず、なかなか動こうとしない中国に痺れを切らした米国の一喝が、功を奏した形といえる。今後、米中間で事故防止や危機管理をめぐる実効的な取り決めやシステムができれば、まさに米国が意図した通りとなるが、米国の対抗措置はこけおどしに過ぎないと思われれば、中国は真面目に取り組まない。米国政府が宣言したように、今後もこの活動は継続される必要があり、日本としては、海上の安全のため、何ができ何ができないのかを検討・準備することが急務である。

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