天津化学薬品倉庫爆発 / 稚拙な中国の危機管理

 8月12日午後11時頃、中国・天津市の港湾区域で大規模爆発事故(事件)が発生した。

断続的な爆発が起こった跡地には、直径100メートル以上のクレーターが出現し、有毒物質への懸念から周囲3キロ圏内の住民が避難させられ、死者147名、行方不明者27名(8月28日時点)を出す惨事となった。

 事故現場の倉庫には、申告されていた量をはるかに上回る有毒物質(シアン化ナトリウム、硝酸カリウム、炭化カルシウムなど)が保管されていた。なぜ、危険な化学物質が、違法に、かつ一般住民が居住する区域の近隣に保管されていたのか。倉庫の所有者である「瑞海国際物流有限公司」の実質上の所有者は、元公安局幹部と党高官の関係者であることが事件後に明らかにされた。中国でよく見られる、企業と官僚の癒着である。

さらに、火災の原因や現場状況がよく分からないまま、消防隊が消火のために放水を行ったことが、大爆発を引き起こす原因となった。死者のうち89名が若い消防員であったという事実は、中国の消防制度や危機管理制度の問題を示している。

当局は徹底した情報管制を敷き、事故の原因や影響に関する情報を明らかにしようとしなかった。しかし、現代では微博(中国版ツィッター)やネットによる情報拡散を防ぐことは不可能である。事故の被害状況や汚染物質に関する様々な情報や憶測がネットで飛び交い、民衆の間では、事故を人災として非難する声が広がった。今回の事件に限らず、習近平政権は報道統制を強化する傾向にあるが、そのことが却って政府の情報に対する人々の不信を招き、中国社会において流言が広がりやすい土台を作っているのは皮肉である。

 李克強首相が現地を訪れたのは事故が起こってから4日後の16日であった。前任者の温家宝首相は、大規模災害や事故の直後には現地入りするのが常であったので、現地入りが遅れたことについて、現場周辺が有害物質で汚染されていたためだとか、北戴河会議(年に一度開催される、党長老を含めた共産党の非公開会議)に参加していたためという噂が流れた。ただ、この事件が国内外で大きく報じられた後の中国当局の対応は素早く、8月27日には、天津市の交通・安全部門の責任者など11名が職権怠慢、職権乱用の容疑で立件された。その後も、元天津市党委書記で、現在政治局常務委員である張高麗の去就が注目されている。

 大事件が起こった後に、民衆の不満を抑えるため、当地や担当部門の責任者が即刻罷免・逮捕されるというのは、中国でよく見られる事象である。証拠隠滅の時間を稼がせないという利点があるのかもしれないが、原因に関係なく断罪されるとなれば、役人や官僚の多くは、問題が起こるとそれを隠蔽しがちになるという弊害がある。

 中国で特に危機管理の重要性が認識されるようになったのは02年末にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行して以降である。その後も多くの事故や災害が発生し、そのたびに危機管理体制構築の重要性が強調されるが、今回の事件を見ても、課題はまだまだ大きいと言わざるをえない。中国では事故があまりに多く(天津爆発事故の10日後、山東の有機化合物工場でも爆発事故が発生した)、また政府の情報統制もあり、事故直後には大騒ぎになっても、しばらくすると忘れ去られることが少なくない。しかし、今回の事件は、中国経済の先行きと政府の対応に懸念が生じている矢先に発生したこともあり、習近平政権の「安定性」に小さからぬ傷を残すこととなった。

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