インフルエンザ・パンデミック(5)

今までみられていた豚インフルエンザと今回のインフルエンザの遺伝子の比較。

インフルエンザウイルスの遺伝子比較
インフルエンザウイルスの遺伝子比較

北アメリカでみられていた豚インフルエンザ、鳥インフルエンザ、季節性インフルエンザ(H3N2)、ヨーロッパ豚インフルエンザの4種類の人、鳥、豚のインフルエンザ遺伝子が混ざり合っている。豚インフルエンザは遺伝子解析からは感受性がある。

遺伝子解析の結果からそのインフルエンザの毒性(病原性)をある程度予測することができる。今回の豚インフルエンザはどうだろうか?

蛋白 部位 低病原性 高病原性 今回の豚インフルエンザ
PB2 627
701
GluA
sp
Lys
Asn
Glu
Asp
PB1-F2 66 Asn Ser 11アミノ酸欠如
HA 分割部位 単塩基性アミノ酸 複数塩基性アミノ酸 単塩基性アミノ酸
NS1 92
C未満
Asp
Arg-Ser
Glu-Val
Glu
Glu-Ser
Glu-Val
Asp
11アミノ酸欠如

病原性の高いウイルスと共通する遺伝子変異を今回の豚インフルエンザは持ち合わせていない。遺伝子解析からは、予後は比較的良好と思われる(=死亡率は従来の季節性インフルエンザより顕著に上がることはないだろう)。

日本では以下の特殊な状況においてタミフルを予防投与(自費)することができる。
同居家族や共同生活者がインフルエンザに罹患した場合下記のどれか1つに当てはまる人(但し13歳以上)
(1)高齢者(65歳以上)
(2)慢性呼吸器疾患患者
(3)慢性心疾患患者
(4)代謝性疾患患者(糖尿病など)
(5)腎機能障害患者
48時間以内に1日1カプセルを7~10日内服

あなたが厚労省大臣なら予防投与の適応を変更するか?
尚、インフルエンザ患者に対する投与可能年齢は1歳以上である。

1歳未満の乳児も含めた5歳未満小児、妊婦。13歳未満の小児で喘息などの合併症をもつ。

下線(4)、今回の豚インフルエンザの予後は季節性インフルエンザと比較してどうであろうか?
まだ初期段階で何とも言えないのが正直なところであるが、全ての結果がでてからまとめるのでは遅すぎる。このような健康危機管理は常に限られた情報の中で判断していかなくてはならない。

入院率が9%、入院患者中死亡した患者が10%、現在も重篤な状態にある患者を含めると20%が回復していない。しかし、ニューヨーク高校では豚インフルエンザの診断を受けたものの10倍近くがインフルエンザ様症状を示しており、いずれも軽症ですんでいる。季節性インフルエンザでも不顕性感染が多いので、今回もそうだろう。よってアメリカでは5月5日の段階で、既に数万人が罹患していると仮定すれば、死者2~4人としても季節性インフルエンザと比較して決して高い死亡率ではない。しかし、新型であるため例年より多くの患者が発生する可能性があり、その結果死亡者割合は変わらなくても死亡者数は増えるかもしれない。

抗ウイルス薬使用の有無が判っている268名中200名で発症後22日以内に抗ウイルス薬が開始されていた。25人がICUに入院し、7人が死亡した。今回の入院患者で生存した患者とICUに入院あるいは死亡など重症化した患者の背景因子を比較している。もちろん多変量解析などを加える必要はあるが、下の表から明らかに患者生存率をよくする治療法(抗ウイルス薬、抗生剤、ステロイド剤)は何か?NEJM 2009; 361: 1935-44

  入院したがICUには入らず生存した
(N=205)
ICUに入るか死亡した
(N=67)
抗インフルエンザ薬使用 144/203(71%) 56/65(86%)
2日以内の抗インフルエンザ薬使用 62/139(45%) 13/56(23%)
抗生剤投与 144/195(74%) 62/65(95%)
ステロイド投与 57/183(31%) 29/56(52%)

発症後2日以内の抗ウイルス薬投与開始は、重症化を抑制している。抗生剤あるいはステロイド投与はかえって重症化した人に多い。これは抗生剤あるいはステロイド剤が病気を悪化させた(その可能性も否定はできないが)というよりは、肺炎合併など重症な患者により抗生剤やステロイドが使われたと考えた方が合理的だ。

2010年夏、ジュネーブのWHOを訪問した。

WHO本部
WHO本部
WHOオペレーションルーム
WHOオペレーションルーム

パンデミックの最中、この部屋と世界6つの地域にあるオフィスをつないでテレビ会議が行なわれた。

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